呼称が違う?そりゃ15年後の話だからだろjk。
「ふう……。」
一通りの家事を終えて、コーヒー片手にため息をつく。
テレビをつけてみるが、シンプソンズくらいしか放送していなかったので、すぐに電源を切ってしまった。
携帯のアラームがなる。
気が付かずに昼寝をしていたようだ。
「しまった……。」
娘をハイスクールまで迎えに行かねば。
全く、バスのある公立校にすればよかったのに。
紅莉栖の奴、「ちゃんとした施設、友人、教師、教材!そのためなら多少苦労してもいいの!」とか言って。
結局割を喰らうのは俺ばかりじゃないか……。
「Hey, Dad! I'm here!!」
校門に車をつけた瞬間に、娘の元気な声がした。
このテンションの高さは、誰に似たんだろうな。
「Dad, you're late!」
「A Mad scientist never late, nor is he early. He arrives precisely when he means to. あと家では日本語にしなさい。」
「は~い。」
なんだかんだで素直な娘だ。クリスティーナに似なくてよかった。
「で、今日の学校はどうだった?」
教師に「お話があります……」と呼び出されなかったので、大丈夫だとは思うが。
「うん、今日は科学の実験だったから、キョーマ大活躍だったよ!」
……ダメだこいつ、早く何とかしないと……。
「なにを、やらかしたというのだ。」
「やらかしたとか、ゆーな!えーと、金属の燃焼実験でね、マグルシオン?とか言うのが面白いっておかーさんに聞いたから、試してみたんだ。」
……ああ、紅莉栖め、やりやがった。
この実験大好き母子は、何かとマッドなことをしたがる。
校長に呼び出されるのは俺なんだぞ……。
「でね、マクドシウム?ってのを、一杯いれてみたんだ!狂気のマッドサイエンティストみたいでしょ!フゥーハハハ!!!」
「何となく、見えてきたぞ結果が……。」
「でね、でね、火をつけたら、ボアッって!バチバチバチバチーって!すごかったよ!クリスとかフェイとかジョシュとかが、すごいすごいって!」
俺にはその後ろで引きつった顔の先生が見える。
「そこでこの、キョーマ・ザ・フェニックスがねぇ、『これが世界に混沌をもたらすマッドサイエンティスト、キョーマ・ザ・フェニックスの実力だーっ!フゥーハハハ!!』って言ったらね、もうみんな、おおーって大拍手!」
俺の黒歴史を的確につついてくる……これは嫌がらせか!?助手よ、そうなのか!?
「というか、お前の名前は凶真ではないだろう。」
「え?だって、おとーさんみたいでかっこいいじゃん!Daddy Kool!」
さりげなくバカにされた気がするのは、気のせいだろう。くそう。
そのあとは近くのスーパーに寄って、買い物を済ませた。
さて、ちゃっちゃと夕食を用意せねば。
紅莉栖は今日、早く帰ってこれると言っていたが、夕飯の準備まで任せる気はない。
……改善しないのだ、調味料の取り違え、煮ると焼くの区別が付かない所。
日本を出る前に、まゆりとルカに徹底的に仕込まれた料理法、俺しか覚えてない。
娘は紅莉栖の部屋で、分厚い専門書を読んでいる。
なんだかんだで、あいつも紅莉栖なみの脳みそを持っているからな……。時折疎外感を感じるが、仕方ない。
専門的な会話になると、母子で英語オンリーの会話になり、生活英語止まりの俺は寝るしかなくなるのも仕方ない。
狂気のマッドサイエンティストは常に孤独なのだ!フゥーハハハ!!
「おとーさん、うるさい。」
何だ我が後継者よ!狂気のキッチンへなんの用だ!
「手伝うよ、おとーさんだけだと不安だし。」
娘よ、お前が言うな。
料理の才能はきっちり助手を受け継いで、塩とクエン酸(オーブン用)を間違えるくらいだからな!
「ただいまー。」
料理の出来た、いいタイミングで我が助手が帰ってきた。
「娘にマグネシウムについて余計なことを吹き込んでくれてありがとう。」
「礼には及ばないわ、凶真さん。」
むう、さすがに疲れた顔の助手には皮肉もきかぬ……。
これ以上言うと、開頭されそうだからやめておこう。
「あ、おかーさん!」
娘がすぽーんと、紅莉栖の胸に飛び込む。
「んん、ただいま。いい子にしてた?」
「うん!今日ね、歴史の時間で、バレルとジョンとブラウンが同じ班になったんだけどさ――。」
紅莉栖と話した娘のことで、一番不思議なのは、友達が多いことだ。恥ずかしながら、俺たち夫婦は友達が少ない。
だが娘は、紅莉栖の天才脳と、俺の黒歴史を引き継ぎ、なおかつ友達が多いのだ。
携帯の通話料と通信料がえらいことになっていたし、土日は俺が、友達も含めた送迎をさせられている。
『フェニックスさんは、気遣いも素敵だし、いつも子供達の面倒を見てくれるし、本当にありがたいです』
と、先週娘の親友の親、ルークさんに褒められた。
苗字が間違っている以外は、ありがたいことだ。
「そうだ我が助手よ、今日はダルたちと連絡できるぞ。」
「あっ、忘れてた!みんな元気かなあ。」
テレビをつけ、電話を一本いれる。すぐに映像通信が繋がり、懐かしのイケメン――ダルは30キロ以上痩せた――が映る。
『オカリン!元気か!お!』
「ダルよ、少しアクセントがおかしいぞ。」
『そりゃ@ちゃんしてる暇も「久しぶり、まゆり。」
『あぁ~、クリスちゃんだ~!』
紅莉栖がダルの悪癖を打ち消すようにしゃべる。お前だけ黒歴史を無かったことにする気か……。
まゆりはずっとこのままで嬉しい。年賀状を貰ったとき、子を抱えたまゆりの写真が妙にお母さんじみていたから、年月の流れをしみじみ感じてしまったが。
よかった、ライブで見るまゆりは、あのときと同じままだ。涙腺が刺激されたのは、年のせいだけではあるまい。
「えーと、ダルおじさん、まゆりおb・・まゆりお姉さん、こんにちは!」
娘よ、あれほど言った地雷をギリギリ回避とは。まあ、よしとしよう。
『うほぉ、これはロリっ娘キターーーー!』
「Yes, I am Lolita!! ビシィ!」
娘のノリの良さ、どうにかなぬものか……。こう言うところが、友達の多さに繋がっているのだろうな……。
『オカリンは、この年末、帰ってくるって確定か?お?』
「無理するなダル。あと年末は日本に帰る。ホリデーシーズンは目一杯な。」
『キィタ!コレ!』
またダルのアクセントがおかしい。@ちゃんする暇もないのに、無理しやがって……。涙腺がまたツーンとしたじゃないか。
「ええっ、日本に行けるの!?」
「そうよ、あなたの故郷だもの。」
娘の輝く顔。紅莉栖の優しい笑顔。
『クリスちゃんも~、オカリンも~、家族揃って来てくれるのが、楽しみなのです。』
画面にまゆりの笑顔が映る。
「私も、あなたの子供に早く会いたい。まゆりがお母さんって、ちょっと不思議だけど。」
『え~、わたしだって、がんばってるよぉ~。』
まゆり、赤ん坊をカメラに突きつけるのはやめろ。どアップ過ぎて訳が分からん。
「学校のシィとか、キリューも日系人なんだ!で、日本の話いっぱいしてくれて!やったあ、日本にいける!@ちゃんの本拠!」
娘よ、お前はたぶん相当に歪んだ日本イメージを持っている。母親の教育が悪すぎだ。
『オカリン、楽しみにしてるぞ!お!』
『空港まで、迎えに行くからねぇ~。』
「うん、楽しみにしてるわ、まゆり。あと橋田。」
「あと一月だ、ラボメンでまた、楽しもう!」
「懐かしいな、ラボ。」
「うん、懐かしいよ。」
今ラボは、ダルが未来ガジェット研究室有限会社の事務所として使い、めざましい活躍をしている。さすがスーパーハカー、我が右腕にして、最高の親友だ。
「あと、一月か……。」
年末には、またみんなと会える。ダルや、まゆりや、留未穂。ミス・ブラウンと萌郁。そしてルカ。
そうだ、今年は鈴羽も加わったんだ。
懐かしいな、……ホントに。
……おやすみ、紅莉栖。